
最近、チームメイトの中に「内側型の野球肘」と診断された子がいました。
その話を聞いたとき、正直ドキッとしました。
というのも、私は作業療法士として身体のことは多少勉強してきましたが、野球についてはまったくの素人だからです。
「痛くなったら休めばいいんじゃないの?」
「フォームが悪かったのかな?」
そんな程度の認識でした。
でも実際には、小学生の肘の障害は決して珍しいことではないようです。
そして調べてみると、アメリカの少年野球では私が想像していた以上に『投球数』や『練習量』の管理が徹底されていることを知りました。
今回は、自分自身の勉強も兼ねて、少年野球の保護者として知っておきたい「投げすぎ」と「家庭での管理」についてまとめてみます。
まず驚いたのは「フォームより投げすぎ」の考え方

野球経験のない私は、
「肘を壊すのはフォームの問題」
だと思っていました。
もちろんフォームは大切なのでしょう。
でも、アメリカのMLBとUSA Baseballが共同で行っている「Pitch Smart」という取り組みでは、子どもの肩や肘の障害の最大要因として『オーバーユース(使いすぎ)』が重視されています。 [mlb.com], [littleleague.org]
つまり、
「変な投げ方だから壊れる」
よりも、
「投げすぎだから壊れる」
という考え方です。
これは医療職としても納得しやすい話でした。
成長途中の骨や軟骨に、繰り返し負荷がかかれば障害リスクが高くなる。
これは野球だけではなく、私たちが普段見ている子どものスポーツ障害とも共通しています。
もう一つ思ったのは、フォームのことはわからないけれど、練習量なら野球素人の私でも把握しやすく、
予防できるケガなのかもしれないということでした。
アメリカでは「何回投げたか」を本当に数える

MLBのPitch Smartでは年齢ごとに投球数の上限が設定されています。
しかも、
「今日は75球投げたから終わり」
ではありません。
投げた球数によって、その後に必要な休養日数まで細かく決められています。
例えば、
という目安です。 [mlb.com], [goleagueready.com]
さらに、
投げた球数によって
などの休養日も決められています。 [mlb.com], [goleagueready.com]
つまり、
「今日は何回投げた?」ではなく「今日は何球投げた?」
という考え方です。
私自身、
「アメリカの学童野球ってそんなに管理されているんだ」
と驚きました。
子どもの体だからこそ、管理が必要という考え方なんですね。
子どもたちは、正直多少の疲労感があっても、頑張ってしまいますからね。
Pitch Smart(9~14歳)の休養ルール
| 1日の投球数 | 必要な休養日 |
|---|---|
| 1~20球 | 休養日なし |
| 21~35球 | 1日休養 |
| 36~50球 | 2日休養 |
| 51~65球 | 3日休養 |
| 66球以上 | 4日休養 |
という考え方です。
日本の学童野球では「1日70球以内」というルールがありますが、アメリカのPitch Smartではさらに一歩踏み込み、投げた球数に応じて休養日数まで決められています。
興味深いのは、70球を投げた場合には4日間の休養が必要とされている点です。
単に球数を制限するだけでなく、「回復の時間」まで含めて管理していることが分かります。
実際にこの数字をみて、結構休養が必要とされているんだなと思ってしまいました。
私の感覚では、一日に70球までは投げても大丈夫なんだと思っていたんですよね。
私自身、70球という数字だけを見ていましたが、アメリカのガイドラインを見て「70球投げた後に何日休むか」まで考えていることに驚きました。
子どもの身体を守るためには、球数だけでなく休養もセットで考える必要があるのかもしれません。
さらに驚いたのは「試合だけ数えても意味がない」ということ

調べていて特に印象的だったのは、
MLBのガイドラインで
複数のチームでプレーする場合も、年間を通じて投球量を把握することが重要
とされていることです。
確かに考えてみると、
試合で50球投げたあと、
- 自主練で30球
- 翌日キャッチボールで50球
- 週末に試合
となれば、肘から見れば全部同じ「投球」です。
私も恥ずかしながら、
試合の球数ばかり気にしていました。
でも本当に大事なのは、
何試合投げたかではなく、どれだけ腕を振ったか
なのかもしれません。
試合で投げた一球も公園で投げた一球も子どもの肘、肩には同じような負担はかかっていますよね。
研究では「投げすぎ」がはっきり数字で示されている
特に気になった論文がありました。
「Exceeding Pitch Count Recommendations in Youth Baseball Increases the Elbow Injuries」
(Matsuuraら、2018) [ncbi.nlm.nih.gov], [journals.sagepub.com]
この研究では7~11歳の投手を調査し、
- 1日50球以上
- 1週間200球以上
- 年間70試合以上
で肘痛のリスクが高くなることが報告されています。 [ncbi.nlm.nih.gov], [journals.sagepub.com]
また、
「Limiting the Pitch Count in Youth Baseball Pitchers Decreases Elbow Pain」
(Matsuuraら、2021) [journals.sagepub.com]
では、
イニング数を制限するよりも、
球数そのものを制限したほうが肘痛が減ったことが報告されています。 [journals.sagepub.com]
野球素人の私でも、「今日は何イニング投げた?」より
「今日は何球投げた?」
の方が身体の負担を表していそうだなと感じました。
日本の学童野球でも確かに、試合中の投球数は数えているし、4年生以下は60球、高学年は70球という制限はありますよね。
それについて次で詳しくまとめます。
日本にもある「球数制限」
実際に確認してみると、日本の学童野球ではすでに投球数制限が導入されていて、全日本軟式野球連盟の学童部では、5・6年生は1日70球以内、4年生以下は1日60球以内という基準が設けられています。
さらに2026年からは週間の投球数制限も導入され、5・6年生は週210球以内、4年生以下は週180球以内という考え方も加わっています。 [jsbb.or.jp], [jsbb.or.jp]
野球経験のない私からすると、
「70球って多いの?少ないの?」というレベルでした。
ただ、今回アメリカの研究やMLBのPitch Smartを調べていく中で感じたのは、球数そのものよりも、
『どれだけ腕を振ったかを把握する』
という考え方が大切なのだろうな、ということです。
実際、全日本軟式野球連盟のガイドラインを見てみると、試合の投球数だけではなく、
- 練習での全力投球は1日70球以内
- 週300球以内
- 練習は週6日以内
- 1日3時間以内
- 年間100試合以内
といった内容まで提案されています。 [jsbb.or.jp]
これを読んで私は、日本の野球も子どもの体のことを考えてはいるんだなと少し安心した反面、
「試合の球数だけ見ていても十分ではないんだな」
とも感じました。
正直なところ、うちの子がチーム練習で何球投げているのか、私は把握できていません。
週に六日も練習しません。
ただ、チーム練習では3時間以上練習しているのは事実です。
だから我が家では、厳密な管理までは難しくても、
「今日はどれくらい投げた?」
「肘や肩は痛くない?」
そんな会話を少し増やしてみようと思っています。
野球についてよくわからないからこそ、
「大丈夫だろう」ではなく、 「よく分からないからこそ気を付けよう」
という姿勢で子どもを見守っていきたいと思っています。
チームメイトの野球肘を見て考えたこと
今回この記事を書こうと思ったきっかけは、チームメイトの野球肘でした。
診断名を聞き、一か月以上の固定が必要で、その後もリハビリが必要と知った時に、
正直なところ、「うちの子は大丈夫だろう」ではなく、
「うちも同じ状況になってもおかしくないかもしれない」と感じました。
どの子も野球が好きです。
練習も頑張っています。
だからこそ、痛くても少し無理してしまう。
もっと上手くなりたいから投げてしまう。
それは決して特別なことではありません。
むしろ真面目な子ほど起こりそうですよね。
だから親の役割は、頑張らせることだけではなく、止めることなのかもしれないなと感じてしまいました。
我が家で少し見直そうと思ったこと

投球数は親が管理すべき?
チームで自主練を含めての投球数をコーチが管理することって現実的にはできませんよね。
子ども自身で管理する意識を持つことも大切だとは思います。
しかし、低学年からそういった管理ができない子がほとんどだと思います。
そうなれば、私は親がある程度管理をしていくのが、一番確実で安全性が高いと思いました。
まだ試行錯誤ですが、今回調べてみて我が家では次のようなことから始めようと思っています。
① 自主練の投球数をざっくり記録する
厳密な管理ではなくても、
「今日は何球くらい投げた?」
を親子で確認する。
まずはそこから。
② 投げない日を作る
野球が好きだと毎日ボールを握りたくなります。
でも身体を育てるのも練習です。
走る日や素振りの日があってもいい。
そう思うようになりました。
もともと毎日は投げていないのですが、土日終わりの日は意識して投げない日を作るようにしています。
③ 肘の痛みを軽く考えない
作業療法士として感じるのは、
子どもは意外と痛みを我慢するということです。
「ちょっと痛いだけ」
と言われると、
親もつい安心してしまいます。
でも成長期の肘は大人とは違います。
だから以前よりも、痛みについて敏感になるべきだと思っています。
痛みの前の疲労感や違和感についても聞いていく必要があるなと感じます。
最後に

今回調べていて感じたのは、
野球肘予防は特別な医学知識の話ではないということです。
アメリカで行われている対策も、
実はとてもシンプルです。
その積み重ねです。
私自身、野球についての知識はありません。
だからこそ、
「うちは大丈夫」
ではなく、
「よく分からないからこそ気を付けよう」
という気持ちで子どもと関わっていきたいと思います。
子どもには、目先の1試合だけでなく、何年も先まで野球を楽しんでほしいですから。
参考文献・参考資料
- Pitch Smart Guidelines(MLB・USA Baseball) [mlb.com], [mlb.com]
- Pitch Smart Program(Little League Baseball) [littleleague.org]
- Safety Spotlight: Protecting Your Children's Arms(Little League Baseball) [littleleague.org]
- Exceeding Pitch Count Recommendations in Youth Baseball Increases the Elbow Injuries, Matsuura T. et al., 2018 [ncbi.nlm.nih.gov], [journals.sagepub.com]
- Limiting the Pitch Count in Youth Baseball Pitchers Decreases Elbow Pain, Matsuura T. et al., 2021 [journals.sagepub.com]
- Are the Current Little League Pitching Guidelines Adequate? A Single-Season Prospective MRI Study, Pytiak AV. et al., 2017 [pmc.ncbi.nlm.nih.gov]

